「人」というのは、互いに支え支えられて生きるものだ、だから「人」と書くのだと 我々は常に教えられてきたが、この頃はそういうことはあまり聞かないように思う。
　どうも人の生き方の原点が変わってきたというか、ぐらついてきているように見受けられる。

　先日 大学の図書館で男女学生二人が盛んにペチャクチャ喋っている場に出くわした。時には大きな笑い声も聞かれ 明らかに近辺の学生達に迷惑をかけている。 喋っている学生が問題なのは勿論だが、周辺の学生達が唯一人として彼等に注意をしない。
　私も２〜３分様子を見ながら我慢していたが、遂に堪忍袋の緒が切れ 二人に近寄って注意をした。「いい加減に静かにしたらどうか。話があるのならここから出て行け」。 意外だったのは、「すみません」とひねくれた様子でもなく素直に謝って、１分程したら二人連れ立って出ていった。
　この二人はこれまでも同じようなことをしながら、誰にも注意されたことがなかったのだろうか？ それ以上に苛立たしかったのは、知らん顔をしている周辺の学生達だ。

　この二人の非常識な態度を見ただけで 私はむかついたので「君たちは何をしているのか。直ぐに立って場所を空けなさい」と言ってやった。 一人が「うるせえなあ・・・」と言うような事を言ったが、ゆっくり立ち上がって次の駅で悠然と降りていった。
　周辺にはいい年配の大人も居ながら、咎めることもせず涼しい顔をしているとは何たる事かと遮二無二腹が立った。　

　最近文部省が発表した小中学生の国際比較で 「外国と比べ、日本は家庭教育が不十分で、子供たちは他の子供と関わりを持とうとしない」様子が顕著に浮き彫りになったと言う。内容のポイントは次のような事である。
　　１．いじめを注意した事があるか？
　　　　　　　　「何度もある」「時々ある」を併せて日本は 22％で最低。
　　　　　　　　　　（韓国、米国、イギリス、ドイツは 40〜50％）
　　２．友達のけんかを止めさせた事があるか？
　　　　　　　　「何度もある」「時々ある」を併せて日本は 32％で最低。
　　　　　　　　　　（韓国、米国、イギリス、ドイツは 60〜70％）
　　３．他に 「何度も友達の相談に乗った」２割、「悪い事を注意した」１割に止まる。
　　４．これらの背景として 「親が子供に諭し注意する事」が１割台、
　　　　　　　　　　　　　　　　　「近所の人から叱られた事が一度もない」が ６割もいる。

　先ず、誤った考えや他人に迷惑をかける非社会的行為というものが、自分の世界だけでは良く解らなくなる。 人の意見を聞いたり、人の言動に関心を持つことによって 「自分の誤りを軌道修正する」ということが出来ずに、自分の考えだけで馬車馬のように走ってしまう危険性をはらむ。
　昔から諺にある「人の振り見て、我が振り直せ」の実行が、今必要なのではないか。　

　勿論「ジコ虫」は悪いことばかりではない。 滅私奉公と言われたような「個の喪失」や「個の犠牲」から解放され 組織に埋もれず「個を確立」し「個を生かす」ことは誠に結構なことである。　

　やがて到来するデジタルネットワーク時代には、人の血の温もりが伝わる人間らしい心の絆〜ヒューマンネットワークの確立が重要だと 第18集で書いた。
　しかし今のままでは 人との間に壁を作り、挨拶もろくにしない「ジコ虫」サイボーグ人間によって構成される無機的社会が実現するとしか思えない。これで21世紀は心の豊かさが実感できる社会になるのだろうか？