びわ湖棚田保存会代表

　６月初旬の土曜日、宮脇氏が地主農家から借り受けてお世話しておられる棚田最上部の現場を訪れ、宮脇氏の棚田保全の取り組みや思いをお聞きした。この日は、ボランティアNALCの学童子育て支援「ぴよぴよ・ひろば」の指導のために棚田に来ておられた。子供達に挨拶された後、畦道で農作業を見守りながら次のような思いを聞かせて頂いた。

　小高い山、森、湧き水、小川、ため池、鎮守の森があって、けものや野鳥、昆虫、メダカ、イモリが生息しているのが里山。その里山の大部分を占めるのが棚田であり、それが自然の生態系の原風景です。

　畑地区の棚田が日本の棚田百選に選ばれたと聞いて、一度現場を見てみようと訪れた。下部の方は比較的良く管理されていたが、最上部の田畑は背丈を超えるような茅や雑草が生い茂った荒地だった。知人から要請されたこともあるが、この棚田を何としても本来の姿に蘇らせて自然を守りたいとの強い思いで棚田保存会を結成した。

　保存会がお世話しているのは、一番標高の高い所の約２反１０枚です。棚田には水田稲作が一番相応しいが、住まいが少し遠方のため地元農家のように水の管理を日常こまめに行なうのは困難なので、水田のほかに畑を作りサトイモ、ソバ、ニンニク、ショウガ、シソ等を作ることにしている。秋には収穫したサトイモでイモ煮会を開き、ソバはソバ打ちをして会員は勿論のこと一般の方にも来て頂いて自然と親しみ収穫の喜びを味わってもらう機会を作っている｡

　昨今は物の豊かさは行き届き心の豊かさが求められる時代、熟年の方もライフサイクルの中に「農｣を織り込むことを考えるのが良いのではないか。自然に溶け込み、額に汗して土に触れ、｢農｣の作業をして収穫の喜びを知ると心の安らぎを覚える。
　私はこの棚田に来て、いくら厳しい農作業をしても疲れを感じることはない。自然の懐に抱かれたこの場所は、なにか聖なる地という感じすらしている。

　学童にも農作業の楽しみを教えたい。水を張った田圃に入り田植をし､畑を耕してサトイモの苗植付けをする、何回か草取りをし、肥料を施して収穫期を迎える。
　稲刈りにしろイモ掘りにしろ収穫する時の生き生きと輝いた児童の顔は喜びに満ち、健康健全そのものです。このような事を通じて自然に親しみ、農作業の喜びが解る人を一人でも多く育てたいというのが私の念願です。

　行政は金銭面の支援も必要ですが、もっと多くの人達が本当に自然に親しみ、自然と触れ合うような施策、｢農｣の心を持つことに喜びを感じるような施策を考えてもらいたいと思う。
それが将来に亘って棚田を守り、日本の自然環境を守り、人間が自然と共生する社会を作る原点だと思う。

　もう古稀を迎えられたと聞くが、その情熱、声の張り、軽快な身のこなしからとてもそうは見えない。自然を愛し農作業を楽しむことは、こんなに若々しい活力を生み出すものかと羨ましく思えるほどである。いずれにしても自然いっぱいの棚田で宮脇氏の｢熱い情熱｣に触れ、元気をもらった一日であった。